わかりやすい精神科

精神科病院と介護老人保健施設の連携

高齢者の精神疾患は難しい?

高齢者の診療で、難しい点は?

入澤院長 高齢者は色々な人生経験をするなかで、友人や親族を失うなどのつらい体験をしたり、仕事など社会参加も減ってきたりします。体の病気も多い。すでに認知症という診断がついている方も、別の病気が重なっている場合もありますから慎重に診ていきます。
最近はご本人の背景情報が得にくいというのも難しさのひとつです。もちろん検査をしますが、それだけで診断をつけられるわけではないからですね。当法人の場合は認知症の専門医が外来を担当しています。入院については、専門医の診断を経て、救急や急性期担当の医師たちが主にBPSD(*1)の緩和に当たっています。

救急・急性期では高齢の患者さんも多いですか?

入澤 約25〜30%は認知症関連の方です。

新型コロナウイルスの影響は?

入澤 認知症の高齢者の方がデイサービスに行けなくなったなど、自宅にいる時間が増えたことによる影響はあったと思います。からざステーションもデイサービスができない時期があって大変だったでしょう。

稲津 そうですね、ご高齢の方が一人で過ごす時間が長かったので、その期間に不安が高まったりADL(*2)が落ちたりは問題になりました。5類に移行したとはいえ、感染症そのものが変わったわけではありませんし、施設内の感染対策は引き続き緊張感をもって行っています。

施設の行事は再開していますか?

稲津 ケアマネージャーの方をお呼びして施設見学や座談会を予定しています。敬老会や施設独自の夏祭り、文化祭などイベントを何らかの形でやろうと思っています。

認知症に特化したリハビリテーション

からざステーションの認知症に特化したリハビリテーションとはどういったものですか?

稲津 利用者の方の在宅復帰・支援を実現する認知症ケアの中核施設として心身の機能維持・回復に当たっています。入所者へ「シナプソロジー」や「くもん学習療法」のプログラムを活用して身体および生活リハビリテーションを行っています。短期デイケア「いきいき倶楽部」という通所サービスにも力を注いでいます。

精神科病院と老健の連携

精神科病院と老健の連携は?

入澤 精神科病院と老健があるのは当法人の強みでもあります。
からざステーションは設立当初から認知症専門で介護に力を注いでおり、歴史もあります。入院前から寝込んでしまっている高齢の患者さんは筋力も落ちていますが、退院されたら老健でリハビリをしっかりしていただいて、施設やご自宅に帰ることができればと思います。
ただし、高齢者はこちらが思い描いた通りに順調な経過をたどって回復するのが難しいところもあります。一進一退することも多いようです。

稲津 地域包括ケアの中で選択肢の一つとして、精神科と当施設を上手に活用いただいて環境や薬の整備をしていただければと思います。
ケアマネージャーさんにとっては、どれくらい困ったら精神科に相談すればいいのかわからないケースも多いかもしれません。認知症のケアプランも難しいものです。ADLがしっかりしている方でBPSDが激しい場合には「入院」や「薬の調整」を精神科病院に相談していただきたいですね。

ケアマネージャーさんに伝えたいことは?

入澤 認知症周辺症状でお困りの時は、まず電話でご相談いただき、ケースによっては入院していただいて、ご期待に応えられる役割を果たしたいと考えています。
医療機関にあっても、お互いの施設のことをよく知らないことが多いと感じます。私たちも地域で生活している患者さんの様子が完全にわかっているわけではありません。これからは、もっと会議や交流の場を設けてさらにお互いの理解を深めたいですね。

稲津 以前は精神科に入院したら退院しづらいと言われていましたが、今は短期の入院で退院し、ご自宅や施設でスムーズに生活できるようになるケースもたくさんあります。そういうことも、多くの方に知っていただければ嬉しいですね。そして当施設を、認知症以外の方にもリハビリ施設として使っていただきたいです。また、今年はじめて、施設に入所していた方の看取りをさせていただきました。今後は可能な範囲で看取りもしていきたいと考えています。
最近は「高齢者の自立」という言葉も耳にします。自分で何でもできるようになること。でも自立に必要なのは「頼れるところ」をたくさん持っておくことです。「早く人に上手に頼る方法を習いましょう」ということだと思います。
当施設で「自立の練習」をしていただいて、人生の最後まで、その方らしい尊厳をもった生き方をしていただきたいと切に願っています。私たちはそのためのサポートを惜しみません。

1 BPSD(行動心理症状)
周囲の不適切なケアや身体の不調や不快、ストレスや不安などの心理状態が原因となって現れる症状
2 ADL(日常生活動作)
日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作で「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のこと