精神科の作業療法士の伊藤です

こんにちは、油山病院作業療法士の伊藤です。専門学校を卒業し、精神科の作業療法士として右も左もわからない・・と言いたいところですが、今思い返すとやる気に満ちて就職したのが早16年前。作業療法活動の中で患者さんと共に様々な経験をさせていただき今日に至ります。その経験から僕自身も多くのことを患者さんから学び、励まされ、勇気づけられてきました。今回、これまでの体験を思い出しながら「精神科作業療法の楽しさはなんなのだろう?」と立ち止まって考えてみましたので、目を通していただければ幸いです。

作業療法の目的はリハビリテーション

本題に入る前に、まずは作業療法について少し堅苦しい話をしていきます。そもそも「作業療法」とは何なのでしょう。「初めて聞いた!」「作業を使った治療?」などピンとこない方も多いかと思います。

日本作業療法士協会の定義では「作業療法とは、身体または精神に障害のある者、またはそれが予測されるものに対し、その主体的な生活の獲得を図るため、諸機能の回復、維持、および開発を促す作業活動を用いて行う治療、訓練、指導、および援助を行う事をいう」とされています。つまり、作業療法は障害をもった方々がその人らしい生活を再び取り戻していくリハビリテーション(Rehabilitation)」の一角を担っています。

精神科作業療法の起源は古代ローマに?

「作業がリハビリ?」と思われる方も多いかもしれませんが、どういうことでしょうか。文献には作業療法の哲学として引き継がれている考え方があります。「西洋医学の元祖と仰がれるギリシャのヒポクラテス(BC460 ~377ころ)やガレノス(AD130~201ころ)は、身体と精神の相互作用を重視し、精神を病む人々に体を使う作業(農作業や木工作業)、楽しめる作業(音楽、演劇、スポーツ、魚釣りなど)をすすめ、「仕事をすることは自然の最善の医師であり、人間の幸福に不可欠なものである」(ガレノス)と説いた。(作業療法概論第二版P38引用 編集岩﨑テル子)と書かれています。

ここで書かれている仕事=作業におきかえると、「その人らしい生活を取り戻す」ことを意味するリハビリテーションとの結びつきや、人にとっての作業の持つ意味、さらには作業療法のもたらす効果も奥深いものになってくるのではないでしょうか。

僕が考える精神科の作業療法とは

難しい言葉がたくさん出てきましたが、僕自身は「作業療法=自分を取り戻すこと」として日々臨床で患者さんのリハビリテーションに関わっています。ここでいう「自分」は、「これまで築き上げてきた自分」にこだわることなく「これから発見する新たな自分」も含まれています。

作業療法は、とにかく楽しい!

では、冒頭でもお話ししたように作業療法士として16年間精神科作業療法に携わった経験から「その楽しさは?」という本題に入っていきます。

ずばり!作業療法の楽しさは「笑顔になれる!」だと思います。入院される(されている)方々は様々な心の病気を抱えながら生活のしづらさを感じておられる方がほとんどです。そこには、「自分らしさ」「生活する意欲」「生きる意欲」が失われかけている方々も見受けられます。そのような方々に作業療法士は「希望の光」になることが大切だと思います。

作業療法を受け、作業療法士と関わることで「何かしてみたい」「またやれそうな気がする」「なんだか元気が出てきた」と感じてもらえるように日々作業療法活動を行っています。心身が健康な方であれ病気を患っている方であれ、生活に潤いや充実感を持つにはまずは「楽しみ」だと思います。だからこそ、作業療法の楽しさは「笑顔になれる!」だと僕は思っています。その楽しさを利用して生活リズムや意欲・関心・自信付けやストレス対処・対人関係の円滑化など個々のリハビリテーションに必要な要素に働きかけていけると思っています。

たとえば、作業療法プログラムとしてのウクレレ体験とその評価

では、精神科作業療法の実際は?と気になっている方もおられると思いますので、少し経験をお話しさせていただきます。

僕自身作業療法でよく利用するものは「音楽」です。7年前にウクレレという楽器と出会いましたが、その音色や幅広いジャンルを奏でることが出来ること、尚且つ楽器そのものからイメージしやすいもの(夏・ハワイ・南国・高木ブー・牧伸二)として患者さんの心に働きかけることが出来ると思ったからです。

実際に統合失調症のグループで行うと、患者さんは物めずらしさに、視線を向け、その奏でる音に耳を傾ける姿がありました。「人が何かに引き付けられる(関心を寄せる)視線」は、表情や身を乗り出したりと自然に体が反応しているのでよくわかります。あきらかに患者さんはウクレレという楽器に興味を示していたと記憶しています。

そのまま覚えたての「線路は続くよどこまでも」を聴いてもらうために弾くと、上手でなかった演奏にもかかわらず自然に歌が聞こえ、手拍子がなり・・、気づけば大合唱。自分を表現することが苦手で自分の中に閉じこもってしまいがちな統合失調症の方々が、楽器に興味を示し(興味・関心)、音に耳を傾け(五感を刺激)、他の方々の手拍子に協調しながら(集団の一体感・協調性)笑顔で歌っている(楽しみ)。

決して歌や手拍子を強制したわけでもなくただただ、演奏を聴いてもらおうという思いで演奏したのですが、この時、僕は作業療法における音楽の効果を実感しつつ「楽しい!」と感じました。患者さんに楽しみを持ってもらおうと始めたウクレレが、自分の楽しみになった瞬間でもありました。

後日、作業療法の時間外にも患者さんから「またウクレレが聞きたい」「歌ってください」「○○を弾いてください。楽しみにしています。」と患者さんのリクエストが次から次に・・。今でも患者さんとウクレレ演奏を楽しんでいます。

ともに行い、ともに感じ、ともに喜ぶ精神科作業療法プログラム

この活動は作業療法の中でも様々あるプログラムの中の一つに過ぎません。作業療法はただ何か物を作るだけではありません。さまざまな事を患者さんと一緒に行い、一緒に感じ、そして共感しあう。その過程の中、完成作品を喜び、ウクレレであれば演奏と歌との一体感やみんなで成し遂げた感覚。これが「楽しみ」につながっていくと思っています。

作業療法は楽しいものばかりではありません(病気の勉強会やミーティングなど)が、人の気持ちを動かす原動力になるのはやはり「楽しみ」だと思います。患者さんが病気の回復へ一歩踏み出すとすれば、それは「楽しみを持つこと」「楽しめること」なのかもしれません。

ご一緒に楽しみましょう

これまでいろいろ書いてきましたが、僕自身も患者さんから元気をもらい、自信をつけてもらい、楽しみを見つけてもらいました。作業療法士は患者さんに何かを提供するだけではなく、患者さんと共に新たな自分を発見し・成長していく存在だと思います。そのためにも、「一緒に楽しむ」ことを忘れないようにこれからも作業療法を続けていきたいと思います。(文責:作業療法士 伊藤雄二)