うつ病の治療

以前は「心の風邪」などと言われましたが、実際には風邪より重い病気であるため、現在はこうした表現はされなくなりました。むしろ放置すれば命にかかわることもありますから、きちんと治療に向き合うことが大切です。特に、重症のうつ状態であるにもかかわらず本人に病識がなく症状の悪化がみられるとき、うつ病の治療は受けているけれども具合が悪くて病院に行けないとき、食事がとれなくなり栄養不良や脱水状態になりかけているとき、死にたいと口にしている時などは、周囲の方は速やかに医療機関や保健所などに連絡してください。

心身の休養

うつ病の治療の基本は「休養」「薬物療法」「精神療法」。これらの治療は、うつ病治療の基本ですから、焦らずに治療を続けることが肝要です。
まず、心身の休養がしっかりとれるように、ストレス要因となっている職場や学校などの場所から離れて自宅で過ごす、場合によっては休養目的の入院という選択肢もあります。そうすることで大きく症状が軽減する可能性もあります。また、ストレスから離れた環境で過ごすことは、再発予防の際にも有効です。

薬物療法

お薬による治療を「薬物療法」といいます。うつ病の治療には抗うつ薬を使いますが、薬の効果が表れるのに少し時間がかかることがあります。一般的に、最初に使用した抗うつ薬に効果が見られない場合には別の薬に変更するなどして薬物治療を継続することになります。ですから、焦らずに医師の指示に従って服薬を継続することが重要です。自分の判断で勝手に薬の量を増やしたり減らしたり、また中断したりしないようにしましょう。また薬の副作用など、気になることは些細なことでも遠慮なく主治医に相談しましょう。お薬についてのみならず、主治医とのコミュニケーションをとることは、うつ病治療にはとても大切なことです。

精神療法

精神療法とは、医師や臨床心理士などが言葉を使って患者さんの心に直接働きかける療法のことです。支持的精神療法と呼ばれる基本的な治療法の他に、認知行動療法や対人関係療法などがあります。認知行動療法は、うつ病の原因となったストレスを振り返って対処法を学び、調子の良い状態を維持し、再発を防ぐ目的で行われる療法として活用されています。この療法は、うつ病における急性症状を治療し、再発の可能性を低減することに効果的といわれています。患者さんと治療者側が信頼関係を築き、患者さんが安心して治療を受け続けられるようにすることで、症状安定の方向に向かうことになります。認知行動療法や医療専門職による認知行動療法的なアプローチは患者さん自身の悲観的な物ごとの捉え方や考え方のくせを改善する方法として、うつ病、パニック障害、強迫性障害など、さまざまな精神疾患の場合にも活用されています。

(ご参考)
厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業 「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」うつ病の認知療法・認知行動療法 (患者さんのための資料)

その他の治療

その他に、修正型電気けいれん療法、経頭蓋磁気刺激法、高照度光療法などが用いられる場合もあります。

  • 修正型電気けいれん療法(mECT)
    気分障害(うつ病、躁うつ病)、統合失調症などの方で緊急性が高い状態の場合や、薬物による副作用が強かったり薬物療法の効果が乏しかったりする場合に活用されます(保険が適用)。修正型電気けいれん療法(mECT : modified Electroconvulsive Therapy)は、治療における不安や身体的けいれんを防止するために全身麻酔薬下(全身麻酔と筋弛緩剤を使用したもの)で行います。
  • rTMS経頭蓋磁気刺激法
    頭に密着させた専用の器具から磁場を発生させ、特定部位の神経細胞を繰り返し刺激して、うつ病による症状を改善させる治療法です。特徴は、治療抵抗性うつ病の方に対しても一定の抗うつ効果が見られること、さらに従来の治療法と比べ副作用が少ないことがあります。そのため、薬物治療に対して抵抗性及び不耐性のあるうつ病の方に適した新しい治療選択として注目をされています。
  • 光療法

    季節性のうつ病に対する効果が最もよく知られているが、季節性以外のうつ病に対しても同様に効果的とみられる。この治療では2,500~10,000ルクスを30~60センチの距離から1日30~60分間照射します。

うつ病と適応障害は、治療が違う

適応障害はうつ病と似た症状が出現しますが、うつ病では抗うつ剤を用いて長期的な治療が必要になることが多いため、適応障害とは経過や治療が大きく違ってきます。いずれの疾患なのか、適切な診断を受けることが大切です。

適応障害の治療

適応障害は、発症の引き金が必ずといっていいほどあり、ストレスにさらされるとすぐに発症しストレスから離れるとすぐに良くなるというと特徴があります。ですから、治療においては、まずストレスの原因に気づくことです。原因となっているストレスを軽減し、さらにストレスそのものから逃れることができるのなら、いったんストレスを取り除いた環境で過ごすことを勧めます。
また適応障害の治療では「環境調整」が重要です。環境調整つまりコーピングには、ストレスを自認・開示(家族や上司など周囲に伝える)、負荷経減(仕事や家事の軽減など)、体調管理(食事、休養・睡眠)、気分転換のような方法があります。自らのストレスを認め、その状況を家族や職場の方など周囲の方に率直に明かします。この場合、ご家族や周囲の方が果たす役割は大きいと思われます。これらの方々にも協力を得て、ストレス要因を解決し、サポート体制を作っていきながら、治療を続けることになります。ただ、このプロセスにおいて、家族を含む周囲の方々も不安や苦痛・苦労を伴う場合がないわけではありません。しかし、そのことが症状の改善には必要であることも多いようです。
さらに、適応障害の治療においても、認知行動療法(認知の歪みを正すことにより患者の行動を変容させる)が活用されます。自分がストレスに暴露して症状が出ていることを正しく把握させ、症状が生じそうな場面における適切な対応法を学習・訓練することができます。最終的には状況のセルフコントロールを目指します。
また、適応障害も場合によっては薬物療法が必要なこともあります。しかし、薬物療法はあくまでも補助的役割に過ぎず、適応障害のすべての場合に薬物を用いらなければならないわけではなく、心身の症状を緩和させ、ストレスの回避を最小限にとどめるうえで、特に症状が強く出ている場合には有効と考えられています。
なお、ストレス状況が改善しない場合には、症状が悪化してうつ病へと至る場合がありますので、早い段階で周囲の人に支援を求めることが重要です。

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