統合失調症とはどんな病気か

統合失調症とは、思考や行動、感情を1つの目的に沿ってまとめていく能力、いわゆる統合する能力が長期にわたって低下し、その経過中にある種の幻覚、妄想、極めてまとまりのない行動が見られる病態です。幻覚や妄想が特徴的な疾患ですから、それに伴って、他人と交流しながら家庭や社会を営むことが難しかったり(生活の障害)、病気のために感覚・思考・行動が歪んでいることを認識することが難しかったり(病識の障害)ということがあります。 この病気は約100人に1人が発症するといわれており比較的かかる頻度の高い病気で、原因は主に脳の神経伝達系の異常ですが、遺伝の影響は否定はできないまでも、遺伝だけで決まるものでもなくさまざまな要因が関与しているとされています。また、思春期から40歳までが発症しやすい時期です。

多くの精神疾患同様に慢性の経緯をたどりやすく、幻覚や妄想が強くなる急性期症状が出現することもありますが、新しい薬の開発や再発予防のための治療の継続、ご家族の協力や社会的なサポートで、症状の安定化や回復を期待することが可能です。

統合失調症という病名について

「統合失調症」という病名は比較的新しい病名です。それまで「精神分裂症」(1937年から使われてきた)という病名を、2002年に日本精神神経学会が「統合失調症」へ変更しました。これは全国精神障害者家族連合会から、「精神が分裂する病気」という病名は人格を否定するような感じがして本人に病名を告げにくいので病名を変更してほしいとの要望があったことが契機になっています。現在は「統合失調症」という病名が周知され、「精神分裂症」と呼ばれた頃の人格荒廃にいたるような重症さをイメージするような古い固定概念はかなり薄れています。

陽性症状と陰性症状、認知機能障害

症状は大きく「陽性症状」=妄想、幻覚、思考障害と、「陰性症状」=感情の平板化(感情鈍麻)、思考の貧困、意欲の欠除、自閉(ひきこもり)、それに「認知機能障害」=記憶力の低下、注意・集中力の低下、判断力の低下があります。

統合失調症の特徴的な症状

妄想

妄想とは、内容的にあり得ないことを強い確信をもって信じていることをいいます。単に内容が奇異であるだけではなく、本人の説明も論理的に飛躍があり、通常は考えられない理由づけをして強く確信して修正が不可能な場合が多くあります。

たとえば、「テレビで自分のことが話題になっている」「すれ違う人が全員自分の悪口を言っている、みんな敵で自分を襲おうとしている」「警察にずっと尾行されている」「道を歩くと皆が自分をチラチラと見る」などのような迫害妄想、被害妄想、追跡妄想、注察妄想、関係妄想などがあり、これら全体を[被害妄想]と称されています。時折、何かを過大に表現したり感じたりする誇大妄想とも呼べる症状もあります。 また、「考えていることが声となる」「自分の考えを世の中の人が全部知っている」など考想化声、考想伝播、作為体験のような[自我障害]の症状も現われます。

幻覚

幻覚とは「対象のないところに知覚が生じる」です。この病気の場合、単に物音がするとか人が話しかけているということだけではなく、自分に対して何か語りかけるような意味が伴っています。たとえば「また馬鹿のことをしている。そんなことやめろ」という声や複数の人間同士が話し合っている声が聞こえたりします。寄生虫がいる、身体がゆがんでいる、内臓がなくなったなどと訴える場合もあります。

その内容は、本人の価値観や関心と関連していることが多く、もとは本人の気持ちや考えのようです。また、本人にとってはこれらの幻覚などが現実のこととして体験され、不安や恐怖に陥ります。

陰性症状

陽性症状といわれる妄想や幻覚のような明らかな症状がなく、単に思考や行動のまとまりのなさ、能率の低下、ひきこもりだけが生じる場合もあります。この症状だけから診断をすることは難しいと考えられます。

陰性症状の代表的なものとして、喜怒哀楽の表現が乏しくなり他者の感情表現への共感が難しい「感情の平板化(感情鈍麻)」、会話の中で比喩などの抽象的な言い回しが使えなかったり理解できなかったりする「思考の貧困」、自発的な何かを行おうとする意欲がなくなってしまったり、いったん始めた行動を続けるのが難しい「意欲の欠如」、自分の世界に閉じこもり、他者とコミュニケーションをとらなくなる「自閉(社会的ひきこもり)」があります。 しかし繰り返しになりますが、陰性症状のみで病気を判断することは控えていただきたいと思います。

認知機能障害

上述のさまざまな症状と同時に、物事を覚えるのに時間がかかるようになったりする「記憶力の低下」、目の前の仕事や勉強に集中できなくなったり、考えがまとまりにくくなったりする「注意・集中力の低下」、物事に優先順位をつけたり計画を立てることができなくなる「判断力の低下」が生じてくる場合が多いようです。

統合失調症の経過

統合失調症の症状の現れ方・経過はそれぞれの方で異なりますが、一般的には「前兆期」「急性期」「休息期」「回復期」に分けられることが多いです。 ただし、これらは一方方向ではなく、回復期であっても病気を誘発するような事象が生じると、再び急性期の症状に戻り、また回復期という経過をたどる場合もあります。また、再発を繰り返すと回復に時間を要するようになるといわれています。

前兆期

発症の前触れのような変化がみられることがあります。症状としては、眠れない、焦りの気持が強くなる、不安感がある、物音や光に過敏になる、集中力がなくなる、気力が減退するなどがあります。しかし、これらの経験は誰しも経験することですし、うつ病や不安障害などのうつ症状と似ているので、初めての発症の場合は統合失調症と判断できないケースもあります。

また、不眠・頭痛・食欲不振などの自律神経にかかわる症状も出やすいようです。再発を繰り返しているようなケースでは、前兆期に同様の症状が生じることで、それを不調の前触れとして本人や周囲の人が早期発見をすることの手かがりになります。症状を悪化させないためには、過労や睡眠不足に注意が必要です。

急性期

不安が強まり、緊張感や過敏性が極度に高まり、幻覚、妄想、興奮というような統合失調症の特徴的な陽性症状が出現する時期です。被害的な幻覚・妄想が増え、頭の中が混乱し、通常の生活リズムが崩れて昼夜逆転の生活が始まるなど行動にも影響があらわれ、周囲とのコミュニケーションも上手くいかなくなります。この時期は、安心感を得ることや休息することが大切になります。場合によっては入院加療するなどの対応が必要です。

休息期

急性期が過ぎると、眠気が強い、身体がだるい、意欲・やる気がでない、引きこもりがち、自信がもてないなどの感情の平板化や意欲の低下が顕著な状態、すなわち統合失調症の陰性症状がメインとなる休息期に入ります。この時期は不安定な精神状態にあり、急性期に逆戻りする可能性も少なくはありません。就寝時間を規則正しくするなど焦らず無理せず生活のリズムを整えていくことが大切です。

回復期

徐々に症状が治まり、無気力な状態から周囲への関心が増加する時期になります。この時期には認知機能障害が現われることもあり、その後の生活上の問題や社会性の低下につながることもあります。少しずつ元気が出てきて心も身体も安定してきたら、あせらずにゆっくり生活の幅を広げ、楽しみながら心身のリハビリテーションを行うことも大事です。また、再発予防のために処方された服薬を続けましょう。

統合失調症の治療

統合失調症の治療の柱は①薬による治療と②精神科リハビリテーションです。

薬による治療が基本ですが、早い段階から「精神科リハビリテーション」を採り入れることが治療の効果を高めます。薬による治療と精神科リハビリテーションのような心理社会的治療は二者択一ではなく、いずれも必要な治療として必要であることを理解してください。

抗精神病薬

統合失調症の治療の中心となる薬を「抗精神病薬」と呼び、症状の改善や再発の予防に効果的とされています。この薬は、脳内で過剰に活動しているドーパミン(脳内のニューロン(神経細胞)とニューロンの間にあるシナプスという接合部で放出される神経伝達物質のひとつ。ドーパミンニューロンは、行動の動機付けに関連して活動を増すことがわかってきました。そのため、ドーパミンはそのような学習の強化因子として働いています。ドーパミンが多くなると、統合失調症の陽性症状が生じます)神経の活動を抑えることで症状を改善すると考えられています。

抗精神薬の主な作用は、以下のものです。

薬の処方は専門医がそれぞれの患者さんに合った種類や量を、患者さんの症状の変化に合わせて微調整しながら行います。

抗精神薬には、定型抗精神薬と非定型抗精神薬の2種類があります。前者は以前から用いられた薬で、後者は最近になって使用されるようになった薬です。非定型抗精神薬は、定型抗精神薬の副作用の軽減を目的として開発されたものですから、副作用は定型抗精神薬より少ないといわれています。

精神科リハビリテーション

精神科医療の領域においては、一般的な身体のリハビリテーションと同様に、精神疾患のもつ方々のための精神科リハビリテーションがあります。精神科リハビリテーションでは、患者さんの心身の機能の維持・回腹そして生活全般の質を高めることを目的としています。すなわち、精神疾患による症状で生じる「生活のしづらさ」を改善し安定した生活を送れるようにするためのものです。

医療機関や地域の精神保健福祉センター、自立訓練所では、医師・看護師・作業療法士・心理士・運動療法士・精神保健福祉士などの専門職を配置し、デイケア、ナイトケア、作業療法、SST(生活技能訓練)、心理教育などのプログラムを実施しています。

精神科リハビリテーションのプログラムでは、一人ひとりの個性に配慮し各専門職が治療的にかかわるのが特徴です。症状が安定し再発や再入院のリスクが軽減されることが期待できます。

デイケア、ナイトケア

外来治療の一環として医療機関で実施されます。保健所や精神保健福祉センターなどでも実施されているところがあります。スポーツ、レクリエーション、心理教育、SST、料理などのさまざまな活動を通じて、①身体や生活のリズムを整える、②コミュニケーション能力や生活技能をアップする、 ③病気のことやストレス対処法、再発・再入院の予防が学習できる、④友人ができ、安らぐ場所ができる、⑤社会参加や社会復帰をめざすことができる、などの目的や効果があります。

なお、医療機関によっては、夕方から夜まで対応するナイトケアもあります。

作業療法

医療機関などでは主治医の判断で作業療法士の指導のもと入院中の患者さんのリハビリテーションとして活用されます。入院中の患者さんが主体的に生活能力や社会適応性を高め、心身の機能回復をはかるために、手工芸、スポーツ、体操、園芸、音楽、書道、絵画、その他のレクリエーションなどの活動を行います。

SST(Social Skills Training : 社会生活技能訓練)

精神疾患を持つ人が社会で生活していくために、対人関係を良好に維持する技能を身につけ、自信を回復し(QOLを高める)、病気や薬との付き合い方を学び、ストレスへの対処などのスキルを習得(再発防止)することが目的です。ただ、今やこれらの技法は障害に関わらず全ての人に適応できるといわれています。日常生活の身近なテーマを設定してロールプレイング形式で学習します。

SST(Social Skills Training)とは「生活技能訓練」または「社会生活技能訓練」と訳され、認知行動療法に基づいたリハビリテーション技法です。

心理教育

統合失調症は高血圧や糖尿病などと同じ慢性疾患のひとつと考えられるようになってきましたから、長期にわたって治療に取り組んでいく必要があります。この病気の患者さんの中には自身が病気であるという病識のない方も少なくはなく、心理教育においては統合失調症という病気への理解、薬物治療、リハビリテーションなどの知識を提供することで、病気に対する理解を深め、治療に前向きに取り組んでいくための教育的な指導が好ましいと思われます。

また、本人のみならず家族を対象とした心理教育もあり、病気に対する理解と本人への接し方やサポートの仕方を学ぶこともできます。医療機関によっては「家族会」というかたちで学習の場が提供されている場合もあります。

在宅支援(精神科訪問看護)

統合失調症薬が改良され、軽症化が進むなか、統合失調症をかかえていても地域生活が営むことが容易になってきました。そうした在宅療養を支えるのに欠かすことのできないサポートとして精神科の訪問看護があります。訪問看護とは、主治医の指示を受け看護師・作業療法士などの医療スタッフが利用者のご自宅にお伺いし、その方にとって必要な心身のケアや療養生活のさまざまな側面を支援するサービスです。

事業所によっては24時間365日体制でサポートが可能なところもあります。

精神科における訪問看護の主な目的は、再発予防、生活支援、社会資源の活用支援です。服薬管理を含む体調・病状の把握することで、症状の悪化を未然に防ぎ、入院にいたらずに済みます。また自立した生活を営むための技能を維持・向上させ、さらに社会生活の充実や就労・復職のサポートも可能です。かかりつけ医や医療機関のソーシャルワーカーに相談すれば適切な事業所を紹介してもらえます。