せん妄とは

せん妄という用語は医学用語としての定義はありますが、病名ではなく、異常な精神状態を指し、錯乱状態を総称する言葉として用いられることもあります。
(錯乱とは、医療では「情報を正常に処理できない状態」を指す言葉として使われ、会話についていけない、質問に対して適切な返答ができない、自分のいる場所が分からない、安全にかかわる重大な判断ができない、重要な事実を思い出せないなどの状態をいいます)
せん妄は、その方がもともと持っている病気や薬など何らかの理由で一時的に意識障害や認知機能の低下などが生じる精神状態のことです。注意力および思考力の低下、見当識(日時や場所の認識)障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。
一般病院の入院の場合、患者の10~30%程度に発症するとも言われています。特に高齢の方の場合、入院や手術の影響で、幻覚、興奮などが生じると安静にできなくなってしまいます。点滴ラインやドレーンチューブなどを抜いてしまったり、ベッドから転落や転倒してしまったりなどして治療の大きな妨げになり、生命に関わる危険な事態になる場合もあります。一般的には、せん妄になっても、若い方や認知症ではない方などで原疾患が完治する場合は、あまり予後の心配はいりません。

さて、せん妄において中心になる症状は、以下のような「注意の障害」と「意識の障害」です。

注意の障害(注意力および思考力の低下)

何かに集中することができなくなり、持続して注意を払うことができなくなる症状が出ます。そのため新しい情報を処理できず、最近の出来事などを思い出せなくなります。

意識の障害(見当識の低下)

何が起こっているのか理解できず、日時や自分のいる場所がわからなくなる見当識障害が生じ、妄想や幻覚が起きます。さらに重症化した場合は、自分や他の人が誰であるかもわからなくなることがあります。思考が乱れ、当てもなく歩き回ったり、ときに支離滅裂な行動をとったりします。
1日のなかで症状が変動する点もせん妄の特徴です。数時間で人格・性格がころころと変わることもあり、症状が安定しません。物静かで内向的になり、せん妄状態にあることを誰からも気づかれないケースもあれば、イライラして興奮して慌ただしく動き回るケースもあります。また、夜間せん妄と呼ばれ、昼間は比較的しっかりしているのに夜間に症状が強く現れ、興奮したり、怒ったり豹変するケースもあります。
ただし、せん妄に興奮、幻覚、妄想などを伴う場合は、躁うつ病や統合失調症などの精神病との鑑別が必要かもしれません。また高齢になってから初めて現れる精神病症状は、多くの場合、せん妄または認知症が考えられます。

せん妄の症状や種類

せん妄の種類や分類は以下の通りです。

[症状別の種類]

  • 過活動型せん妄(興奮、幻覚、妄想、点滴・チューブを自分で抜いてしまうなど)
  • 低活動型せん妄(無気力、反応が乏しい、日にち・曜日を忘れる、自分がどこで何をしているかわからなくなる、目の前にいる人が誰かわからなくなるなど)
  • 混合型せん妄(上述の過活動と低活動の両方の症状)

[発症状況による分類]

  • 術後せん妄
    入院、特に集中治療室(ICU)への入室が、せん妄の原因やきっかけとなる場合があります。また、手術。せん妄は手術後にも非常に起こりやすくなります。原因としては手術によるストレス、手術中に使用される麻酔薬、術後に使用される鎮痛薬などが考えられます。
  • 夜間せん妄(睡眠と覚醒のリズムが崩れ、夜に症状がでるせん妄)
  • 熱せん妄(発熱により引き起こされるせん妄)
  • 零戦せん妄(アルコール中毒の離脱の際などに震えが起きるせん妄)

せん妄の原因と治療

上述の[発症状況による分類]にあるように、せん妄はもともとの病気に加えて多くの環境要因や身体要因が組み合わさって、発症すると言われています。環境要因や身体要因とは、急病などの身体的ストレス(入院や手術)、薬品に含まれる成分への反応、低血糖、脱水、栄養失調、外傷など、または身内や友人の不幸など、身体や心に強いストレスがかかる場合を指します。ですから、医療機関で原因になっている異常を早く特定して治療することが大切です。
医療機関においては血液検査、尿検査、画像検査などにより可能性のある原因を調べ、原因を速やかに特定して治療しないと、眠気と反応の鈍化が進行し、昏迷(非常に強い刺激を与えなければ覚醒しない状態)に陥ることもあります。

せん妄と認知症の違い

せん妄の症状は、認知症と似ていますが、まったく異なる病気です。その大きな違いは、一過性か否かという点にあります。せん妄は突然発症し、数時間から数週間にわたり症状が継続しますが、時間とともに症状が変化するのもせん妄の特徴です。数分前はせん妄状態だったのに、すぐに正常な精神状態であることもよくあり、継続的あるいは短時間に何回も観察しないとせん妄なのか(認知症なのか)、見逃してしまいます。ただし、せん妄と認知症が同時に発生することもあります。
認知症では一度発症すると、基本的には認知機能が戻らず進行していくのが特徴です。しかし、せん妄の場合は、せん妄に対する治療やもともとの病気が治ることで認知機能が回復します。ただし、もともと認知症がある方がせん妄になると認知機能が完全にもとの状態に戻らないことも少なくはないと言わざるを得ません。
また、せん妄と認知症は、意識、発症時期、症状などの点で違いがあります。
せん妄の症状の中心は「意識の障害」で注意力が障害されることにあります。それに対して認知症の症状の中心は「記憶の障害」にあります。そのため、せん妄では意識障害がありますが、認知症では意識自体はおおむね正常です。また、発症時期での違いとしては、せん妄は突然発生し、多くの場合いつ始まったのかをはっきり特定できますが、認知症は一般にゆっくり発生し、いつ始まったのか特定することは難しいとされます。
注意しなければならないのは、高齢者、過去に脳卒中を起こした方、認知症やパーキンソン病の方などでは、比較的軽い病態でもせん妄をきたす可能性があることです。せん妄は年齢には関係なく生じますが、高齢者は身体に負荷がかかりやすいので、せん妄になりやすい傾向にあり、もともとの病気の管理や使用する薬品への注意などがより一層必要になります。