7月9日、製薬会社のご協力によりオンライン講演会「地域で支援を考える会~統合失調症を中心に~」が開催されました。まず、一般講演として独立行政法人国立病院機構琉球病院アウトリーチチーム医長久保彩子先生による「地域共生社会における新たな精神科病院の役割について」、次に特別講演として福岡市東区のちはやACTクリニック院長渡邉真里子先生から「利用者のくらしにアウトリーチがどう役立つかを考える」がありました。
久保先生からは、国が定めた2025年までに精神科病床数削減の目標を念頭におくと、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムと対人支援の両輪が必要であるというお考えが示されました。そのためには欧米諸国で採用されている多職種協働による包括支援マネジメント、いわゆる英国のケアマネジメント手法であるCPAを日本版CPAとして発展させていくことが好ましいとのこと。すなわち自ら援助希求できる当事者とサービス利用を結びつける、従来型支援と問題解決型支援を機能させ、医療が包括的支援マネジメントの責任主体となることが望ましいとお話しされました。しかも、精神科地域ケアの成功のカギは「より小さく、多様性を受け入れ、連続性をもつ」ことにあるとご教示いただきました。
また、渡邉先生からは地域のACTクリニックとして約8年の実績から、より具体的なお話をお聞きすることができました。精神障害を持つ方が地域で暮らし続けることで生じる悩み(ひきこもり、就学就労に関すること、心身の不調など)に対応する包括ケア地域支援プログラムに則ったACTの活動の成果は、近年科学的効果が確認されるようになったとのこと。ちはやACTにおいても訪問活動を継続することで外来にすら来れなかった方々のうち外来通院が可能になった方の割合が約64%、就学就労に繋がった方も約30名いらっしゃるそうです。そもそもACTにおいては、医師の指示のもと対応する訪問看護と異なり、医師以外の多職種のスタッフの判断範囲の自由度が高い特徴があり、また支援いただく地域の方々とも対等で、自チームだけでなく他の機関とも交わりながら、スタッフが問題を抱え込まないで済むことも好ましく思われるとお話を続けられました。地域における訪問活動では 身体的なことも含めて利用者の複合障害を診ることが多く医療人としての高いスキルが必要であるけれども、求められている現場に赴くという医療人としての醍醐味を感じると力強く締めくくられ、受講参加者は深く感銘を受けました。
今月は7月15日にもライブ配信講演会「福岡精神医療を考える会」(福岡大学医学部精神医学教室衛藤暢明先生による特別講演「双極性障害における自殺予防について」)が開催される予定です。