不安障害とは

初めて会う人と話す時や入社試験の時に、不安や緊張から心臓が高鳴ったりすることはごく自然なことで、「不安」は誰もが普通に持っている感情です。そもそも「不安」は脅威や精神的ストレスに対する正常な反応で、正常な不安は恐怖に根ざしており、生き延びるための重要な機能ともいわれています。しかし、不安や心配が過度になりすぎて、払拭できないような過剰な不安を感じる状態や、不安が持続する状態、さらに不安に感じるその対象や状況を回避してしまう状態が生じ、仕事、学業、人間関係などを含む日常生活そのものに支障が出ていたら、それは「不安障害」かもしれません。不安障害といってもさまざまな種類があるので、代表的なものをご紹介します。

不安障害の種類と症状

パニック障害

パニック障害においては、「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」という特徴的な症状が現れます。
まず「パニック発作」ですが、パニック障害ではその時の状況などに関係なく起きる「予期しないパニック発作」を繰り返します。「パニック発作」とは、突然激しい不安や恐怖に襲われて、動悸がする、めまいがする、汗がふきだす、身体が震える、息苦しい、胸が痛い、吐き気がする、気が遠くなるなどの症状が起き、これらの症状により自身が死んでしまうのではないかと思うほどの恐怖を感じることがある状態です。しかし、症状はすぐに消失し、検査でも異常はみられません。「パニック発作」は心筋梗塞などの症状によく似ているため、循環器科や呼吸器科や消化器科を受診することになります。また、死にそうだと訴えるため救急車で病院に運ばれるケースも少なくはありません。しかし、どんなに検査しても異常が見当たらない場合は不安障害が疑われます。
さらに、「パニック発作」は繰り返し生じるので、発作が起きていないときでも、また発作を起こすのではないかと心配するようになります。そのような状態を「予期不安」と呼びます。
また、いつ発作が起きるかわからず、自分一人ではどうしようもないという強い不安のために、助けが得られない状況や場所にいることを避けようとする「広場恐怖」の症状も起きます。例えば、電車、バス、高速道路、トンネル、エレベーターなど逃げられない環境や、頼れる人がいなかったり、すぐに助けを呼べなかったりする状況では「発作が出るかもしれない」といった「予期不安」が生じて、外出できなくなり、徐々に生活にも支障が出てくるようになります。多くの「パニック障害」では、この「広場恐怖」も見受けられます。このような「広場恐怖」によって、さまざまな活動の場を避けるようになると、通常の社会生活を送ることが難しくなる場合もあり、うつ病を合併する懸念も生じます。

社交不安障害(社会不安障害、SAD)

人前で恥ずかしい思いをするのではないかと不安になったり緊張したりすることは自然なことです。しかし、社交不安障害は必要以上に不安や緊張の度合いが大きく紅潮や発汗、震え、腹痛などの症状が現れる状態で、以前は対人恐怖・視線恐怖・赤面恐怖などと呼ばれることの多かった状態です。さらに、このような症状がまた出てしまうのではないかという不安や恐怖が強くなって、外出や人と会うことを避けるようになります。その結果、登校拒否や出社拒否、アイコンタクトを避ける、人が集まる活動への参加を控える、などの行動が見られるようになり、仕事や学業など社会生活を円滑に送ることができなくなってしまいます。さらに、社交不安障害は自尊心の低下や学力の低下、うつ病・アルコール依存などを引き起こす原因となり、悪化すると自死を考えることもあるため、早期発見と適切な治療が必要な疾患といえます。

強迫性障害

強迫性障害では、「手を繰り返し洗い続ける」「火を消したか、執拗に確認する」「ドアのカギを何度も確認する」「階段数など気になった数や、頭に浮かんだ数字を数え続ける」など、不合理と知りながら一連の行動を再度完了して確認したり、つまらないことだとわかっていても過度にとらわれたり、無意味で過剰な行動を繰り返します。通常の日常生活において何度か確認するといった行動は誰でもよくありますが、「強迫性障害」は実際にはありえないことや状況に対するさまざまな不安があり、その不安を解消するために一見無意味で過剰と思われるような行動を繰り返し、「強迫観念」や「強迫行為」に支配され続け日常生活に大きな支障をきたすような病的な状態を指します。

全般性不安障害(GAD)

全般性不安障害では、特定の状況に対してではなく、学業、家族、友人にかかわること、日常生活におけるさまざまなことや活動に対して、漠然と不安や心配、緊張が半年以上続きます。例えば「自分が何かの病気になるのではないか」「家族が事故に遭うのではないか」のように、天災・不慮の事故や病気などを必要以上に不安に感じてしまい、なかなか払拭することができません。それらの不安や心配が持続することから、物事に集中できなくなり、疲れやすさ、筋肉の緊張、不眠、震え、過度の発汗、吐き気、下痢、動悸、めまい、頭痛などの身体的症状を伴うこともあり、日常生活が円滑に送れないようになります。また、これらの症状をもとに気分が晴れない状態が続き、集中力がない、落ち着かない、緊張がとれない、怒りっぽい、学力が低下するなどの結果につながる可能性があり、うつ病やパニック障害との関係性が指摘されることもあります。

不安障害の原因と治療

上述のように不安障害には、不安を感じる対象や症状の出方はさまざまで、パニック障害、社交性不安障害、強迫性障害、全般性不安障害などが含まれます。不安障害の原因はまだ明らかになっていませんが、精神的な気質、環境的なストレス、不安障害の家族歴など複数の因子が複雑に影響しあい、不安障害が発症するのではないかと考えられています。
また、不安障害の特徴として、うつ病やその他の不安障害(パニック障害、全般性不安障害、強迫性障害など)を併存しやすい傾向があります。その他の精神疾患を併発すると症状悪化や長期化につながりやすいので、日常生活に支障が生じるほどの状況の場合は精神科など専門の医療機関を受診することが大切です。
さて、治療の方法は大きく薬物療法や精神療法に分けられます。不安障害の治療は、根本的に不安障害をなくすというより、日常に支障をきたす苦悩となるような症状を緩和して日常生活を送れるようにすることを目標とします。
まず、薬物療法においては抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などが用いられます。薬を服用することや治療全般に不安や疑問がある場合は遠慮せずに医師に相談しましょう。
精神療法では、医師や臨床心理士との対話を通して治療が行われます。また、精神療法の一種である認知行動療法では、心と身体をリラックスさせる、極端な考え方のクセを見直すことなどを通して行動を修正するように方向づけが行われます。不安を感じる対象や不安の感じ方はさまざまですから、個人個人に対して適切な方法を設定することが重要になります。いずれにしろ、医師や臨床心理士・看護師などと相談しながら、焦らずに治療を進めていかれることが好ましいと思われます。