クローズアップされる発達障害

最近はテレビや新聞・雑誌などで「大人の発達障害」に関するものがとりあげられることがよくあるようです。病気というほどではないけれども、その場の空気が読めなかったり、コミュニケーション能力が著しく低かったり、忘れ物やミスが極端に多い人は一定数いますし、普段の生活や仕事で「他の人はうまく出来ているのに、なぜか自分だけいつもうまくいかない」と悩み、その理由や原因がわからない、気を付けていても改善できず同じ失敗を繰り返す人も少なくからず存在します。
それらの状況には発達障害が関与しているかもしれませんが、軽々に判断することはできません。発達障害に限らず、精神疾患の確定診断は専門医による総合的な判断の上でなされます。また、「大人の発達障害」を診る医師は現在のところまだ少ないのが現状です。
さて、精神科医の春田武彦氏(都立松沢病院元精神科部長、多摩中央病院元院長)は、その著書の中で「注目される[大人の発達障害]」に触れ、周囲の人たちが「あいつは発達障害じゃないか」と疑い、本人も自身の生きづらさを「発達障害」というものに求める傾向が出てきていると語っています。そして、「ひきこもりやセルフネグレクト、パーソナリティ障害、依存症、強迫性障害、統合失調症等とされているケースの一部には、実は発達障害として理解したほうが適切な人がいます。また発達障害がもたらす[生きづらさ]のためにうつ病を呈したり、あるいは発達障害をベースに持った人がうつ病や双極性障害、その他の精神疾患を併発すると病像が非典型的なものとなって診断や治療が難しくなる―と、そうした事情から(中略)発達障害は、しだいにそれを見落とした際の弊害のほうがクローズアップされつつあるようです。」(医学書院「はじめての精神科」春田武彦著)と続けています。
ですから、今回は改めて「発達障害」の簡単な基礎知識を掲載しました。

発達障害とは

発達障害は、生まれつきの特性です。すなわち、先天的な脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です。他人との関係づくりやコミュニケーションなどは不得手ですが、優れた能力が発揮されている場合もあり、周りから見てアンバランスな点が多く、理解されにくい障害です。その行動や態度は「自分勝手」とか「変わった人」「困った人」と誤解され、敬遠されることも少なくありません。そのため、養育者が育児の悩みを抱えたり、本人自身が生きづらさを感じたりすることもあります。しかし、その原因が、親のしつけや教育の問題ではなく、脳機能の障害によるものだと周囲の人が理解すれば、接しかたも変わってくると思われます。発達障害があっても、本人や家族・周囲の人が特性に応じた日常生活や学校・職場での過ごし方を工夫することで、持っている力を生かしやすくなったり、日常生活の困難を軽減させたりすることができると考えられています。

発達障害の種類

「発達障害」は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性(こうはんせい)発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの(発達障害者支援法)」と定義されています。
以下の3つが主なものですが、複数の障害が重なって現われることもありますし、障害の程度や年齢(発達段階)、生活環境などによっても症状は違ってきます。

  • 自閉症スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)
  • 学習障害(LD)

3つのタイプの他にも、トゥレット症候群のようにまばたき・顔しかめ・首振りのような運動性チック症状や、咳払い・鼻すすり・叫び声のような音声チックを主症状とするタイプのものも、発達障害の定義には含まれます。

自閉症スペクトラム症(ASD)

コミュニケーションにおいて、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちや話のニュアンスを読み取ったりすることが苦手です。自分の興味のあることばかりを話し、相互に会話することが難しい場合もあります。興味のあることには熱中しますが、初めてのことや予定が変更されること、あいまいな表現(「普通でいいよ」など)は苦手で、環境になじむのに時間がかかります。また、聴覚過敏や、光・におい・皮膚感覚などに過敏な反応がみられることもあります。
思春期や青年期、さらに就職すると、一層対人スキルを求められ、学習においても多様な能力を総合的に求められる機会が増えますし、仕事に臨機応変さが求められることもあり、それらをうまくこなせないことや対人関係などに悩んだするようになります。成人期には日常生活、家庭、職場などで困難を抱え、精神的な不調を伴い支援を必要とすることもあります。
参考:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html

注意欠陥・多動性障害(ADHD)

「多動性」「衝動性」と「不注意」といった特性があります。いずれも認められる場合と、いずれかが認められる場合もあります。
子どもの「多動性」「衝動性」は、落ち着きがない、座っていても手足をもじもじする、席を離れる、おとなしく遊ぶことが難しい、しゃべりすぎる、順番を待つのが難しい、などで認められます。「不注意」は、忘れ物や紛失が多い、集中力が必要なことを避ける、気が散りやすい、整理整頓が苦手、やるべきことを最後までやりとげない、課題や作業の段取りが苦手、などの状態があります。
大人になると、計画的に物事を進められない、我慢が苦手でそわそわとして落ち着かない、感情のコントロールが難しいなど、症状の現れ方がさまざまで、一般に「多動性」「衝動性」は軽減することが多いとされています。また、不安や気分の落ち込みや気分の波などの精神的な不調を伴うこともあります。
参考:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html

学習障害(LD)

全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態を指し、それぞれ学業成績や日常生活に困難が生じます。
参考:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」

発達障害の治療や支援

まず治療についてです。自閉スペクトラム症を治療する薬はなく、睡眠や行動の問題が著しい場合や、てんかんや精神的な不調に対して薬物療法を併用する場合もありますが、まずは不調の原因となるストレス要因や生活上の変化を確認し、環境調整することが大切と考えられています。また、注意欠陥・多動性障害の場合も、日常生活における困難が持続する場合には薬物療法を併用する場合もありますが、薬物療法は症状を緩和するもので根治的な手段ではありません。
参考:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」
さて、私たちが社会生活を行うためには当然社会性やコミュニケーション能力が必要ですが、発達障害のある子ども達は、それらが不得手なため、幼稚園や小学校などの集団に入るとさまざまな困難に直面してしまいます。発達障害が理解されず適切なサポートがされないと、学校に行くことがストレスとなり、不登校や引きこもりなどの二次障害につながる場合も少なくありません。
ですから、養育者や周囲の人が「発達障害かもしれない」と思われる行動や反応に気づいたら、居住する市町村の窓口や「発達障害支援センター」に気軽に相談なさることをお勧めします。もし発達障害であれば、適切なサポート(医療や訓練、教育、福祉的な支援)も早い段階で受けられるようになります。
「発達障害支援センター」では、自閉症スペクトラム症の場合、当事者を対象にしたグループ活動を提供したり、生活自立・就労などの相談に応じたりしてくれますし、成人を対象とした対人技能訓練やデイケアなどのリハビリテーションを行っている施設の紹介も可能です。注意欠陥・多動性障害においては、養育者のスキルを伸ばすことや親同士のつながりや心の支えを重視し、養育者が小集団で注意欠陥・多動性障害への理解を深め、対応するスキルを身につけるためのペアレント・トレーニングも実施されているようです。いずれにせよ、発達障害に関する適切な窓口につながることで、発達障害のある子どもが、社会に適応する力を身につけながら、その障害の特性に応じ自分らしく成長できるようにさまざまな情報や支援が提供されます。
発達障害の現れかたは、その障害の種類や程度、年齢などによって異なります。さらに、生活のなかで困難なこと、不得手なことも一人ひとり違います。そのため、一人ひとりの特徴に応じて配慮し、きめ細やかに支援していくことが重要とされています。

(注)「発達障害」を専門的に治療している医療機関は限られており、当院(油山病院)におきましても専門的な治療は行っておりません。なお、関連するご相談につきましては、以下のような公的な相談窓口をご紹介いたします。

「発達障害」の相談窓口