軽度認知障害(MCI)とは

最近、アルツハイマー病などの認知症の前段階の状態を意味する「軽度認知障害」という用語がよく使われるようになっています。その代表がMild Cognitive Impairment(MCI)です。前述の認知症の診断基準にもとづく診断の段階ではすでに進行しており、かつ現在治療が確立できない疾患であるがゆえに、認知症最初期の特徴を明らかにすることが必要になり、軽度認知障害(MCI)が注目されるようになったと思われます。

軽度認知障害(MCI)を平易な言葉で言い表すと「認知症まではいかないが、健常ではない」かつ、「数年後に認知症に移行する可能性がある」状態のことをいいます。最近の厚生労働省の認知症施策の現状についての発表のなかでは、認知症とその予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の人口は862万人と予測されています。これは65歳以上の4人に1人という驚異的な比率です。

2017年6月に発表された国立長寿医療研究センターの研究で軽度認知障害(MCI)の高齢者を4年間追跡調査した結果では、軽度認知障害(MCI)をそのまま放っておくと認知機能の低下が進み約14%が認知症に進んだ一方で、仮に軽度認知障害(MCI)になったとしても、約46%が健常相当に回復する可能性も伝えています。

ですから、認知症の予防対策として、まずは軽度認知障害(MCI)の早期発見・早期診断が重要になります。

軽度認知障害(MCI)の4つのタイプ

軽度認知障害(MCI)には、記憶障害が見られる「健忘型」と、記憶障害はなく他の認知障害(人の顔が分からなくなる、服の着方が分からなくなる等)がある「非健忘型」の大きく2種類があります。

「健忘型」の多くは、進行すると将来アルツハイマー型認知症になる可能性が高く、「非健忘型」の場合は前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症に移行する可能性が高いと言われています。下記の図のように、記憶障害の有無、さらにその他の認知機能障害の有無と障害の数によって、4つのタイプに分けられます。

MCIのサブタイプ診断のためのフローチャート

MCIのサブタイプ診断のためのフローチャート (Petersn,R.C 2004)をもとに作成

軽度認知障害(MCI)の診断

現段階では軽度認知障害(MCI)の診断方法は確立されておらず、認知症専門医でも正しい判断が難しいケースが生じる場合もあります。最終的には医師が問診を含めて総合的に判断しますが、ここでは医師による診断の補助になるに検査などについて、紹介します。

認知機能検査

「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」などを活用。

一般的な身体検査

尿検査、血液検査、内分泌検査、血清梅毒反応、胸部X線写真、心電図検査

MRI検査、CT検査

脳の状態を調べるために、MRIやCTといった画像検査が行われます。

その他の検査

画像検査

脳血流SPECT   脳の血流を調べる検査です。
糖代謝PET     脳の糖代謝を調べる検査です。

脳脊髄液検査

アルツハイマー病と関連のある物質の、脳脊髄液に含まれる量を調べるものです。

MCIスクリーニング検査(血液検査)

軽度認知障害(MCI)の兆候を早期に発見できるとされていますが、アルツハイマー病の原因物質が血液中にどれだけ含まれているかを調べるものです。

認知症と軽度認知障害(MCI)の違い

厚生労働省は、軽度認知障害(MCI)の特徴を下記のように定めています。

  • ほかの同年代の人に比べて、もの忘れの程度が強い
  • もの忘れが多いという自覚がある
  • 日常生活にはそれほど大きな支障はきたしていない
  • もの忘れがなくても、認知機能の障害(失語・失認・失行・実行機能障害)が1つある
厚生労働省 みんなのメンタルヘルスより

軽度認知症(MCI)なら予防と改善

軽度認知障害(MCI)と診断されても、必ずしも将来認知症になるわけではありません。先述の国立長寿医療研究センターの研究結果では、MCIの高齢者の4年間追跡調査結果では約46%は正常に戻ったという数値もでています。

最近では、軽度認知障害(MCI)が発見されても生活習慣などを改善することで、認知症への進行を防いだり、発症を遅らせたりできることがわかってきています。できる限り早期に発見して、食習慣を見直したり、定期的な運動習慣で脳の生理状態を良好に保ったり、多くの人とコミュニケーションをとり、認知機能を重点的に使うような頭を使った行動をして認知機能の改善や維持を図りましょう。このように取り組むことが大変重要な認知症予防であるという認識が拡がっています。

軽度認知障害(MCI)のさまざまな治療

食事による治療

栄養のバランスを考えた食事をしましょう。規則正しい時間帯に、野菜、青魚を中心に1 日20~30品目を食べることを心がければ、生活習慣病の予防にもつながります。軽度認知障害(MCI)の改善には、次のような食品を推奨します。

  • さば、ぶり、さんま等の青魚
  • ブロッコリー等の野菜のアマニ油、エゴマ油等
  • アーモンド、くるみ等のナッツ類

運動トレーニングによる治療

有酸素運動は、注意力を高めて物忘れ防止に効果的です。有酸素運動とは、軽く息があがるくらいの状態を保つ運動で、長い時間継続することが可能なのが特徴です。有酸素運動が軽度認知障害(MCI)改善に効果的だということは、国内外の論文で証明されています。有酸素運動には次のようなものがあります。

  • ウォーキング
  • ジョギング
  • 水泳
  • ヨガ
  • エアロビクス
  • コグニサイズ*
    2015年5月に国立長寿医療研究センターが発表したコグニサイズは、運動と認知トレーニングを組み合わせた新しい運動療法として注目を集めています。

認知機能トレーニングによる改善

前頭前野を刺激することを目的として、遊びながら脳の記憶力や集中力を鍛える脳トレーニングはさまざまな効果が得られます。現在ではさらに遊びの要素に加えて認知機能に新たな刺激を与える認知機能トレーニングにも注目が集まっています。

  • 頭をつかうゲーム(パズル、麻雀、オセロ、将棋など)
  • 学習ドリル
  • 複数人グループでの回想法
  • 楽器を使った音楽演奏、合唱