親なき後が不安な精神科のご家族のために

中年の息子を心配する母親のイラスト

精神障害をお持ちの方のご家族、特に高齢のご家族は「私がいなくなった後、どうなる」という大きな不安を抱えていらっしゃると思います。当院で開催される家族会(あけぼの会)においても、この不安についてご家族から繰り返し発せられます。

そこで、本年2018(平成30)年6月16日(土)に開催した当院の家族会「あけぼの会」は、年1回の懇話会のみの運営として、地域精神保健福祉機構(コンボ)から出版されている「親なき後に備える」という著書を参考に、ご参加の皆様で語り合う会としました。

当日は約30名の精神科の患者さんのご家族が参加され、4つのグループに分かれてお話し合いをしていただきました。初めは互いに少し躊躇された様子も見受けられましたが、次第に打ち解けて、家族で話し合っていること、実際に行っていることなどの内容が会話のなかで交わされていました。これらのグループミーティングを通して、親なき後について具体的に考えるきっかけになりましたと言われる方も多くいらっしゃいました。

「親なき後に備える」(地域精神保健福祉機構(コンボ)出版)

この著書は、「親なき後に備える」ために、何を話し合い、何をすればよいのかがわかる本です。それはすなわち「親なき後のこと」を不確かな今後の問題ではなく「今の問題」として捉え、具体的に考え行動する必要性を説いています。

この本では当事者・家族・専門家の人達がそれぞれの立場から具体的な体験と知恵を語っている内容がたくさん掲載されていますので、いろいろなヒントを得ることができます。自分にもできること、今のうちにしておいたほうがよいことなどを知ることで、行動を始めるきっかけになります。
本の巻末には、お金のやりくり、家の管理、家事のことなど、家族間の話し合いのための項目のリストもついています。

当事者、家族、支援者にぜひとも役立ててもらいたい一冊としてお薦めします。

利用できる障害者福祉制度を知る

当院の家族会「あけぼの会」の平成29年度第1回定例会では、福岡県社会福祉士会障がい者委員会委員 長澤奈緒子先生より「どうする?私がいなくなった後」~親亡き後の暮らしについて~と題して講演していただきました。基幹相談支援センターは、障がいのある方やそのご家族のための地域に密着した相談窓口として、お住まいになっている小学校区ごとに配置されています。長澤先生は中央区障がい者基幹相談支援センター(中央区笹丘)で相談員として勤務なさっています。

講演内容

最初に障害者福祉の歴史、総合支援法(福祉サービス利用などに関する)成立までの流れについて説明がありました。

さらに、親亡き後の生活の不安について①経済的なこと、②住居のこと、③日常生活と3点について具体的に利用できる制度を紹介していただきました。

① については、判断能力が不充分な方(事業の契約能力のある方)は社会福祉協議会が実施している「日常生活自立支援事業」という制度が使えます。契約すると、預金や日常生活費の管理や福祉サービスの利用のお手伝いをしてもらえます。
また、判断能力が無い方は成年後見制度の利用ができ、そのメリット、デメリット、成年後見人の実際の仕事内容について○×のクイズ形式で大変わかりやすく教えていただきました。

②については、まずは地域で生活するイメージを浮かべてみることで、どんな生活がしたいか、どんなことが心配か、具体的な暮らしのかたちを考えることができます。福祉サービスには家にきてもらう訪問型のサービス、利用される方が出かけていく通所サービス、泊まりのサービスや出かけるための支援など様々なものがあります。
それらを利用するためには、相談支援専門員にサービス等利用計画を作成してもらう必要があります。

今すぐサービスを利用するかは人それぞれだと思いますが、まずは様々な情報を知ること、また無料体験できそうなものがあれば一度体験してみることも良いではないかとのお話がありました。

生活保護の仕組みと現状

当院の家族会「あけぼの会」の平成30年度第1回定例会でも、先述の「親なき後」のご家族の不安にお応えして、会のなかで「生活保護の仕組みと現状」という演題で、福岡市保健福祉局総務部保護課監査係長 大野直樹氏よりお話しいただきました。

講演内容

以下の項目や内容は、改めて生活保護制度への理解を深めていただくためにお話しされたものを整理したものです。

【制度の趣旨】
最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
【相談・申請窓口】
お住まいの地域を所管する福祉事務所。
【生活保護を受けるための要件】
生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、利用できる資産、能力、その他あらゆるものを最低限度の生活の維持のために活用すること。また、親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けること。(*資産:預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等。*能力:働く能力。*その他あらゆるもの:年金、手当など。)
【支給される保護費】
厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を差し引いた額が保護費として支給される。
【生活保護の手続きの流れ】
【適正実施の取り組み】
平成26年5月から、生活保護についてさまざまな情報を受け付ける専用の窓口として、生活保護ホットラインを設置している。寄せられた情報をもとに、生活に困っている人に必要な保護を適用するとともに、不正が確認された場合には、適正に対処するなど、生活保護のさらなる適正化につなげている。

精神科の家族会に参加されたご家族の声

「あけぼの会」では、講演会・懇話会の後にアンケートを実施し、ご参加いただいた方の率直なご感想をお聞かせいただいています。平成29年と平成30年の「親なき後の不安」お応えするテーマで開催した会のご感想の一部を以下に掲載しておりますので、ぜひご参考になさってください。

[平成29年]

A:「どうする?私がいなくなった後~親亡き後の暮らしについて~」
(講師:福岡県社会福祉士会障がい者委員会委員 長澤奈緒子氏)

  • 今回の「どうする?私がいなくなった後」~親亡き後の暮らしについて~の講演を受けて自分達の心配事で助かりました。
  • 後見制度についてもっと勉強したい。
  • 皆様の意見が聞けてとても良かったです。悩み事が皆さん共通している所等とても勉強になりました。

[平成30年]

A:「生活保護の仕組みと現状」
(講師:福岡市保健福祉局総務部保護課監査係長 大野直樹氏)

  • 生活保護について具体的に知ることができた。
  • 将来の参考の一つにしようと思う。
  • 今後の子どもの状態を見守りながら、また、皆様の話しを聞きたいです。

参考:「あけぼの会だより(発行:油山病院地域医療連携部)」