KYTについて

KYTとは、危険予知トレーニング(危険予知訓練)のローマ字表記の頭文字をとってKYTと呼んでいます。危険予知トレーニングは、もともと工場や製造などの作業に従事する作業者が、事故や災害を未然に防ぐことを目的に、その作業に潜む危険を予測し、指摘し合う訓練です。

活動方法は、多様にありますが、4ラウンド法がもっとも馴染みある手法です。

4ラウンド法とは、まず職場や作業場の何気ない日常風景の写真やイラストを用い、それを作業メンバーに提示します。その写真やイラストを見て、どのような危険が潜んでいるのかを皆で指摘し合います。気づいた危険な点は数多く提示して頂き、この時点では内容の検討や批判は行ないません。次に、問題点が出そろったところで、原因などについてメンバー間で話し合い、問題点を整理します。整理し終わったら、改善点や解決策について自由に意見を述べてもらいます。最後に、あがった意見についてメンバー間で協議、合意しまとめます。

合意結果は、朝礼で発表したり現場に掲示したりし、メンバー間の共通認識として共有できるようにし、危険回避を図ります。

KYTは1回経験すれば良いというものではなく、繰り返しおこなう事で、日々繰り返される何気ない日常作業や突発的に起こる作業の中で、常に、何か危険が潜んでいないかということを、各々が考える習慣(リスクセンス:危険への感受性)を持たせることがとても大切です。

医療とKYT

もともと作業者向けに開発され発展したKYTが、なぜ医療の世界で必要とされたのでしょう。日本の医療界において、医療の安全性を考えるきっかけとなったのは、1999年に起こった患者取り違え事故なのではないでしょうか。手術室に患者さんを受け渡す時点で、患者取り違えが起こり、そのまま誰も気づかず手術が行われました。その間に多くの人々が関わりましたが、残念ながら幾重のチェック機能もすり抜けてしまったという組織事故です。

医療における安全な文化を醸成するためには、病院で働くすべての職員が、医療は安全が大変重要であるということを共通認識として持ち、行動することが必要と考えます。その文化醸成のため、KYTは医療安全を定着させる有効な方法と言えるかもしれません。

実際の医療現場では、リスク因子は数多く存在し、例えば同姓同名の患者さん、廊下の水こぼし、ベッド車輪や車椅子のストッパー、患者さんと点滴スタンドとの距離や点滴ルートのトラブル、医療器具のコンセントなど多くの危険性を含んでいます。

精神科病院とKYT

精神科病院においては、先述した内容以外にもリスク因子が存在します。精神科病院の特殊性としては、まずは鍵の存在です。精神症状によっては、医療及び保護が欠くことのできない患者さんがいます。その方たちの心身の安全のために、場合によっては閉鎖病棟という治療環境を整え、施錠することでその方たちを守ることができます。鍵の取り扱いについては、職員一同細心の注意を払っています。また、ドアの開閉時には、鍵を掛けた後もさらに、しっかりと閉まっているかを再確認する作業を徹底し、習慣化を図り、リスク回避に努めています。

次に、命を守るという観点で言えば、患者さんの自殺防止ということがあります。希死念慮という言葉がありますが、これは病状によって死にたいという思いが強くなっている状態です。このような方の行動を未然に防ぐかかわりの一つは環境を整えることです。病棟内、病室内には色々な場所があり、色々な物が配置されています。我々はその環境が、自殺防止に対して、安全な環境として提供できているのかという事を常に考えておく必要があると考えます。

最後は、暴力です。精神的なコンディションが悪い時、患者さんは善悪の判断も付きにくくなり、普段は暴力を振るうような方ではなくても、暴力に至ってしまう場合があります。暴力に至る多くの原因は、その方が「何か」からご自身を守るという行動ではないかと考えられています。そのため、その恐怖心から、職員を含む他者へ自己防衛的に暴力を起こしてしまうわけです。精神科領域では特にスタッフも患者さんにとっては一つの環境要因と言えます。体調が弱っている患者さんに、スタッフが強い口調等で話しをすると、それに対し恐怖を感じ暴力に至ってしまうケース考えられます。精神科病院で働く職員は、自分たちの行動が患者さん達にもたらす影響をしっかりと理解していく事が、危険回避に繋がるともいえます。

医療安全とCVPPP

また、当院では医療安全の一環としてCVPPP(シーブイトリプルピー:包括的暴力防止プログラム)を展開しています。例えば、興奮が強い患者さんがいた時に、患者さんと職員双方の尊厳が保たれ、心理学的手法を用い暴力を回避するのがCVPPPという技法です。

現在看護部では、CVPPPトレーナーを取得した看護師が10名在籍し、平成25年度より、看護部でCVPPP 研修を3回1クールで実施し、現在106名が研修受講を終了しています。

今後もKYTの研修を継続し、現場に潜む危険や危機を減少させること、安全な現場環境をつくること、スタッフ全員が安全に向けた活動を行なうことで、医療の安全性を高めていきたいと考えています。

(文責 精神科認定看護師 斎藤 孝則)