精神科病院退院後の在宅生活においても食生活に留意を

精神疾患の患者さんは年々増加傾向にあり、国は患者さんの地域移行を勧めるための包括的ケアの構築をめざしています。入院生活では栄養バランスの整った食事や規則正しい生活を送ることができますが、在宅生活においても継続することが難しいケースは少なくありません。今回は精神疾患の患者さんの食についてお話させていただき、ご本人はもちろんですが、患者さんを支えるご家族や周りの方の参考にしていただければ嬉しいです。

統合失調症の患者さんにおける食の傾向

統合失調症の患者さんは健常な方に比べ肥満などの生活習慣病を合併する割合が多く、きちんと治療されていないことが多いと報告されています。一度に食べる量が多くなったり、長い時間をかけて食べたりすることでエネルギーの過剰摂取に繋がる場合があります。夜眠れなかったり、途中で目が覚めたりすると夜食を摂ってしまうことも生活習慣病に繋がります。また、抗精神病薬の中には食欲増進作用を副作用にもつものもあるため、注意が必要です。
さらに統合失調症の患者さんではファーストフードを摂取する割合が髙いとの報告もされており、自炊が難しい方がそれらを利用されていたり、間食として利用したりする場合も多いようです。適度に利用すれば悪いものではないため、適切な量や頻度を理解しなければなりません。そのほか、健常な方に比べ炭水化物や脂質の多い加工食品(インスタント食品や菓子)の摂取や食物繊維や果物の摂取が少ないことが様々な調査や研究で明らかになっており、栄養のバランスが崩れやすい傾向があるようです。抗精神病薬の副作用による口渇によってソフトドリンクの摂取が多くなる方もいます。過度な制限はストレスを与えてしまうことがあるので、食べ過ぎている場合には回数や量を減らすことから始めるようにすると良いでしょう。例えばジュースを1日ペットボトル3本飲んでいる場合は、まずは2本に減らしてみましょう。
食べ方の特徴としては早食いや詰め込みなどかき込むように食べる方も少なくなく、誤嚥・窒息の事故につながる恐れもあります。そのような時はご家族や周りの方は声かけをしていただき、また食材の大きさを調整するなどの工夫もお願いしたいと思います。
それから、口腔内の状況(歯の有無など)にも目を向けることが大切です。精神疾患の患者さんは口腔ケアが不十分な場合も多く、虫歯が多く若くても自歯が少ない人がいます。口の中の環境が悪いと食べられるものに制限がでてしまうこともあるので、歯磨きの大切さを伝えることや歯科受診への促しも必要であると感じます。

気分障害の患者さんにおける食の傾向

まずは食事量の変化が挙げられます。うつ病は食欲不振を起こす方が多いですが、反対に食欲が増進する方もいます。食事量が減ると体重減少など低栄養を引き起こし、食事量が増加すると生活習慣病のリスクが高くなります。食事の時間になっても食欲がわかなかったり、「砂を噛んでいるよう」と表現されたりなど美味しいと感じられなくなることもあるようです。
つぎに、気分障害の患者さんは生活が不規則になりやすいため、朝食や昼食を食べなかったり、簡単に済ませてしまったりすることで夕食や夜食などが多くなることもあるようです。急激にもとの生活習慣に戻すことは難しいため、簡単に摂取できる食品を取り入れることから始め、少しずつ規則正しい生活習慣へ戻しましょう。規則正しい生活習慣は服薬管理にもつながります。
うつ病に関連する栄養素も分かってきています。キノコ類に多く含まれるビタミンDや葉物野菜や納豆などに含まれる葉酸が不足するとうつ病のリスクを高めるということも分かっています。しかし栄養素は互いに関係しあうため、一番大切なことはバランスの良い食事によって、さまざまな栄養素を摂ることです。

精神疾患患者さんは個人個人によって症状も異なります。対応に困った場合やわからないことがあればお気軽に当院の管理栄養士までお尋ねください。