(お詫び) 令和4年度の実習につきましては、当院感染対策委員会などでも重ねて検討いたしましたが、やはり本年度も慎重に対応すべきとの結論に至り、実習生の受け入れを断念することになりました。また実習再開される日を楽しみに皆さんをお待ちしております。

精神科における作業療法

精神科の治療では精神療法・薬物療法・家族療法といった様々な治療が提供されており、作業療法もそのなかのひとつです。当院には、入院中の方から外来通院中の方まで幅広く対応しているリハビリテーション部がありますが、作業療法士は院内作業療法(入院中の方を対象にしています)、デイケアそれぞれに在籍しています。油山病院では、この2つの部署で作業療法の学生さんの実習を行っています。

ここでは、まずは作業療法がどういったものか、入院中の方への作業療法を例にお話したいと思います。

作業療法士の役割

作業療法は医師の処方に基づき提供されます。処方が出ると、各病棟の担当作業療法士が個別で面接を行い、一人一人に応じた参加の仕方を患者さんとともに考え、導入しています。当院では入院初期から作業療法が処方されており、作業療法士は入院したばかりの患者さんに接することになります。入院したばかりの患者さんの中には、これから始まる入院生活に不安を感じておられたり、寂しさを感じておられたりする方も多くいらっしゃいます。そんな中で、見知らぬ作業療法士がやって来て、活動のプログラムをご紹介し、お部屋から出て来て参加してみませんか、とお誘いするわけですから、緊張したり戸惑う方も多くいらっしゃいます。作業療法士は、患者さんが何に困っておられるか?その方はどんな生活を送ってこられたのか?何をするのがお好きなのか?等、作業療法を実施する上で必要な情報を選択し、そのことについて安心してお話していただけるよう努めています。患者さん一人一人の生活背景やそれに伴って経験されたであろう心の動きを想像しながらお話を伺います。
作業療法士は活動という場を通して、毎日決まった時間・場所・顔ぶれで、患者さん方と活動を共に過ごす立場にあります。作業活動を通して、病棟での姿とはまた違った一面を知ったり、毎日の変化に細やかに気付けたりする存在でもあります。日々の関わりを通して患者さんに安心感を持っていただければ、活動の場は『楽しいかもしれない』『これなら出来るかもしれない』『やってみたい』、時には『悔しい』『残念だ』など様々な情緒を感じていただける機会にもなり得ます。
また、当院の作業療法は病棟の機能に沿って実施されており、その目的は多岐に渡ります。楽しみや気分転換、趣味の発見、体力の維持向上、生活リズムの安定等を目的とした各種手工芸やスポーツ、患者さんが社会生活を送るための準備をする退院準備グループ、その方らしい生活を送っていただくために病気についての正しい知識や健康に関する情報をお伝えする心理教育、人とのコミュニケーションのとり方を具体的に学ぶSST、患者さんに自身の思いや体験などをお話していただく集団療法などが行われています。

作業療法の治療因子

作業療法は、参加する方々・作業療法士・作業活動・場・集団、など多様な要素から構成されています。ここでは最も特徴的な“作業活動”“集団”ということについて考えてみたいと思います。

1.作業活動

“作業活動”は作業療法士にとって最も大切な治療の媒体です。ごく日常的な身辺の活動から専門的なものまで、ありとあらゆる種類の活動を作業として [石谷直子, 2006]用います。料理や散歩など誰しも一度は体験したことがあるものから、陶芸や革細工、各種描画など、もしかすると患者さんにとってはあまり馴染みがないかもしれない作業も行っています。
はじめは戸惑っておられても、次第に“作業をしているとこんな気持ちになる”“段々と楽しめるようになった”“安心して集団の場にいられるようになった”“作品を通して自分自身を俯瞰してみることが出来た”“自分のこころの変化を感じることができた”“発散になった”等、作業の効果を患者さんたちは話してくださいます。
これらの多様な作業活動を使いこなすためには、その作業によって人にどんな影響があるのか?理解しておくことが必要です。まずは自分自身が取り組んでみて、実際に感じることもとても大切です。そして、自分自身が感じたことが何からもたらされたのか?考えてみることが、その作業活動の特性を理解することにつながると思います。ひとことに“作業の特性”というと漠然としていますが、作業そのものが持つ心理的特性、作業の過程がもたらす心理的特性、作業が個人に与えるイメージ特性 [石谷直子, 2006]、と分けて考えてみると、とても興味深く気付きが多いように思います。

2.集団

精神科での作業療法は基本的に集団で行われます(個人作業療法を行う場合もあります)。 “集団”と一言に言っても、浮かぶイメージは人それぞれだと思います。学校生活や部活動、職場、家族…集団との付き合い方・集団の中での身の置き方はそれぞれに違っています。作業療法は、入院中の患者さんがそれまでの人との付き合い方、集団の中での自分の在り方、を振り返る場としても生かすことができます。また、共に参加している患者さんや作業療法士との関係の中で、医師や臨床心理士との治療で得た洞察を実体験として感じる機会にもなり得ます。作業療法士自身も集団に身を置きながら、集団の動きをよみとり、自分自身を治療の媒介として用いています。

チームの一員として

精神科の治療は、あらゆる職種が関わって成り立っています。他の職種のスタッフがどんな仕事をしているのか?どんな役割を担っているのか?理解した上で情報を共有し、治療を進めていくことが必要になってきます。実習の場では、まずは作業療法士が何を目的にどの部分を受け持っているのかという専門家としての立場を把握するとともに、他職種の仕事内容を理解することや、互いの役割と関連を知る良い機会であると思います。

学生さんへ

私が思うに、実習で一番大切なことは、失敗を恐れずに自分らしく何事も体験してみることだと思っています。先に述べた、①患者さんの気持ちを想像することから関係が始まっていくこと・患者さんのことを理解しようとする姿勢を身に着けていくこと②作業活動の効果を考えそれを提供すること③集団の中で自分のことも治療の媒介に使うこと。
これらは、どれも自分自身の経験があって初めて、実感を伴って理解できる部分が多いように思います。専門職として治療に携わるわけですから、まずは教科書や色々な文献を読んで知識を得ることもとても大切です。実習は、それらを自分自身の体験として学び取っていく臨床活動の第一歩であると思います。学んだことが自分の体験とつながることは、とても面白いものです。患者さんの役に立つことができた、という喜びが伴えばなお一層嬉しいものです。これまで、作業療法士について色々な点を述べてまいりましたが、どれもすぐに身につくものではなく、働き出してから真に理解できる事柄の方が多いように感じます。日々の臨床場面で失敗も繰り返しながら、それについて振り返りながら学び取っていくことも多くあります。私がこれまで臨床活動を続けてきた原点は学生時代の精神科の実習にあるように思います。初めて担当した患者さんが気持ちを話してくださったとき・学校で勉強したことを実践させていただきそれが患者さんの治療の役に立てたとき、本当に嬉しく思いましたし、作業療法って面白いなあ、と感じました。社会人になって仕事としてそれをするようになってからも、その感覚がずっと続いています。

慣れない場所での実習、大変緊張されることと思いますが、臆することなく、自分らしさって何かな?作業療法って何だろう?と分からないことだらけでも、まずは患者さんのために自分にできることは何だろう?そこから始めてみてはいかがでしょうか。

引用・参考文献:石谷直子(2006).『精神科作業療法』.星和書店.

リハビリテーション部 作業療法士