脳血管性認知症とは

脳血管性認知症とは、脳梗塞(脳の血管が詰まって脳の一部に血が流れなくなり、その部分の脳の働きが消えてしまう)や脳出血(脳の血管が破れて出血し、脳組織を壊したり圧迫したりすることで様々な症状が現れる)など、いわゆる脳卒中(脳の血管障害)にともなって起こる認知症です。記憶障害だけでなく、早い段階から歩行障害など身体機能の低下がみられることが多く、排尿障害などの身体症状が合併する場合もあります。全認知症のうち約20%が脳血管性認知症といわれ、アルツハイマー型認知症に次いで多く、若年性の認知症においても同様の傾向がみられます。また、男性に多い傾向があります。
脳血管性認知症の原因はさまざまで、加齢もひとつの危険因子として挙げられますが、全身の血管に動脈硬化を引き起こすような高血圧、糖尿病、高脂血症などの病気、喫煙習慣、肥満、大量の飲酒なども発症のリスクを高めます。

脳血管性認知症の症状

脳血管性認知症においても、基本的な症状は他の認知症と同じです。認知症の症状である記憶障害(したことを忘れる、どこに置いたか忘れる)、見当識障害(日時や曜日、場所がわからない)、実行(遂行)機能障害(段取りができない)が生じます。それ以外の脳血管性認知症の特徴的な症状として以下のようなものが考えられます。

  • 「まだら認知症」と呼ばれるような症状
    脳血管に障害を受けている部分の機能は低下しますが、障害を受けていない正常な部分の機能は保たれます。そのため、あることはしっかりできるのに、他のことは何もでできないなど大きな能力の差が生じ、また時間帯によっても差があるなど「まだら認知症」と呼ばれるような症状があります。
  • 症状を自覚し、抑うつや怒りの感情が出やすい
    障害を受けている脳の領域によって「できること」「できないこと」が生じ、そのことを本人も自覚しているので、他の認知症よりも抑うつ状態になったり怒りの感情が湧き出たりすることが多くなります。
  • 感情のコントロールができない
    さまざまな感情をコントロールすることが難しくなり、喜怒哀楽の感情が通常よりも激しく表れたり、逆に乏しくなったりすることもあります。
  • 1日の中でも症状の変動が出やすい
    1日の中でも体調の良し悪しで「できること」と「できないこと」が変わるなど、症状の変化が見られます。
  • さまざまな症状が出やすい
    脳血管認知症では、脳細胞の死滅の影響により様々な症状が併発しやすくなります。歩行障害、運動麻痺、感覚麻痺、言語障害、嚥下障害、排尿障害(頻尿、尿失禁など)などの症状が早期からみられることもしばしばあります。
  • 「階段状」に進行する
    脳血管性認知症の特徴は、脳血管の閉塞や出血とともに突然発症することがある点にあります。そのため症状が安定していると思っていたら、突発的に新たな症状が加わることもあり、改善と悪化を繰り返しながら症状が進行します。このように階段状に症状が悪化する点も特徴のひとつといえます。

このような特徴をもつ血管性認知症ですが、まず検査では頭部MRIやCT検査で確認することが必要です。脳血流SPECT検査でも、関連のある領域で血流の低下が認められます。梗塞や出血がなくても、血管が狭くなることで血流が滞り、認知症の症状を呈していることもあるため、SPECTのほかMRA(脳の血管を画像化)や脳血管造影検査を行うこともあります。

脳血管性認知症の治療

脳の細胞は一度死んでしまうと戻ることはありません。脳血管性認知症の記憶障害やその他の認知機能障害を改善させる確実な方法は現在のところ存在せず、また血管性認知症は脳梗塞や脳出血の再発にともなって悪化していきます。ですから、脳血管性認知症の治療では、原因となっている高血圧や糖尿病、脂質代謝異常症などの治療を行うことが先決です。そのような再発につながる基礎疾患に対しては、それに合わせた薬物治療を行います。また規則正しい食生活や運動、禁酒、禁煙などの生活習慣の改善も必要です。脳血管性認知症ではアルツハイマー型認知症を合併していることもありますので、その場合は抗認知症薬が使われることもあります。
薬による治療以外では、リハビリテーションによって脳を活性化し、症状の進行速度を緩やかにすることが可能だと考えられます。理学療法士や作業療法士の働きかけによるリハビリテーションなどが重要になります。
さらに、家族など周囲の方の病気への十分な理解が必要です。そして、介護保険なども活用して無理なくサポートしていけるように工夫することが大切です。